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「日本が売られる」

遅ればせながら,堤未果氏の著作を読んだ。

日本が売られる (幻冬舎新書)

日本が売られる (幻冬舎新書)

  • 作者: 堤 未果
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2018/10/04
  • メディア: 新書
やはりと言うか,そこまでかというか,竹中平蔵氏の活躍ぶりがあちこちで指摘されている。

彼はパソナの会長であり,オリックスの取締役にもついている。表向きの肩書きは東洋大学教授,慶應大学名誉教授である。

彼の個人的利益の源泉は,法案作りに関わる政策決定にある。かつての郵政民営化時より構造改革の騎手だ。これに反対するものは既存権益にしがみつく抵抗勢力とのイメージを植え付けた。

正義の味方づらをしてきたその実態は利益相反*もへったくれもあったものではない。犯罪レベルである。従来のしくみを破壊しては新たな利権を作り,それを貪り食う。昨今,どんどん繰りだされる首をひねる政策の多くは彼が決定に関わっているものとみても良いくらいだ。

本書に登場する人物名は多くないが,彼の名は何度も登場する。いくつもの会議の民間議員を務める。

悪名高く,さすがにマスコミでも報道された通称「高プロ法案」,年収の基準など無く,高度プロフェッショナル職向けでもなんでもなく,要は残業代廃止法案で,働き方改革法案ではなく,「働かせ方改革法案」であったのだ。この法案を決定した「産業競争力会議」にももちろん彼の名前が見える。彼に言わすと時間内に仕事を終えられない従業員に残業代など払う必要はないのだそうだ。

年間102日以上の休みのみを与え,残業は無い。残業が無いのでは無く労働基準法の適用除外にするので,1日24時間働かせたって違法では無くなる。ただし健康診断を受けさせることになっている。先日指摘したパソナの子会社ハピルスはそこからピンハネして稼ぐわけだ。実に芸が細かい。全くの氷山の一角だったわけだ。

「何も変わりませんよ。一般の方には関係ありませんよ。」とうそぶく。そもそも何も変わらなければ,新たな法律を作る必要などないわけだ。批判をかわすため,「小さく産んで大きく育てる」というのは法律の改正などで,世のしくみの改変を狙う勢力の常套手段だ。

直接に政策に関わった小泉政権時代からの非正規雇用の拡大はもちろん,第2次安倍政権時代になってからの外国人労働者枠の拡大,オリンピック誘致,万博とカジノの抱き合わせ,日本を蝕むおかしな政策はほぼすべて彼の新自由主義的な思想のたまものだ。

首相官邸のHPには,彼の氏名で検索すると,あるわあるわ,なんと1096もの文書がヒットする。
財務省,金融庁,経産省,首相官邸,内閣府,環境省,文科省,国交省,総務省…もちろん,彼が小泉政権時代は閣僚に入って執務していたこともあるのだろうが,いまだに現役で徹底的に日本売りを主導している現実はめまいを感じざるを得ない。

個別に指摘するのも面倒だ。発言力が強いことは確かだ。忙しいのなら欠席するのかと思いきや,いつぞのどの会議かはテレビ会議でまで参加して強い発言力を発揮している。その質・量ともに日本を売っている首謀者の一人は彼だというのは間違いない。

マスコミがグルになっている。彼らもまた,民放が民間企業の経営側の利益に寄り添うのはやむをえないにしても,視聴者から料金を集めているNHKまでもが「報道しない自由」を発揮して,国民にこれらのことに関心を向けさせないような報道だ。水道民営化法案が国会で審議中の時,オウム真理教の麻原彰晃受刑囚らの処刑が当てがわれた。各マスコミは,水道民営化法案などどこ吹く風で,オウムに狂奔したわけだ。重要法案が山場を迎えるころ決まって別なニュースが現れて,その実態が一般国民に知らされず覆い隠されてしまう。主権者たる国民には知らないまま,いつの間にかに持ってかれている有様だ。

野党時代,あれほどTPPに反対,うそをつかないと言っていた自民党が与党に戻った瞬間にTPP推進に戻った。もっと驚くべきことは,アメリカが抜けても,日本は抜けるどころか,アメリカが戻って来たときのためのお膳立てをしていると。これなど,我が国がアメリカの大統領や世論に動かされているのでは無く,アメリカの軍産コングロマリットおよびその背後の国際資本に動かされているという傍証になるだろう。

個人的な趣味だが,もっとも嫌いな人種が日本人の,日本的倫理観を失ったアメリカかぶれの人間だ。
わずか100年,200年の歴史で世界に冠たる国家となったアメリカに学ぶべきものは多い。堤未果氏もアメリカの大学に学んだが,「今だけカネだけ自分だけ」のウォール街の行動原理に嫌気がさし,日本のシステムの良さに気づき帰国した。アメリカで学び,アメリカの風土に直に触れ,日本の良さにも気づく。これが真の国際人だろうと思う。英語と算数だけが出来て倫理観を持たぬ者のやることはカネと地位の亡者だ。

アメリカ人のバイタリティや自由競争主義が極限まで行き,彼らなりに本来持っている筈の倫理観を超越し,自らの生存さえ否定するバケモノになっているのだ。

これは,書いてあることでは無く,当方の感想だ。
鹿鳴館時代の日本の様に,日本の伝統はすべてダメだと浮世絵や美術工芸品など二束三文で売り飛ばしてしまった愚を,今度は日本公的システムに関して行っているわけだ。国際的にはもう時代遅れで反省機運が起こっているのだが,ハゲタカ新自由主義に染まり切って自らへの利益誘導は止めようとしない。この様な人物に一刻も早く退いてもらうことが日本の子孫のために重要なことだ。

いくつもの実例が紹介されていて詰め込みすぎとの批評もあるが,それだけ著者の危機感の表れでもあるし,これほどまでに国民生活に直接関わる沢山の事例をマスコミが殆ど報道しないのも実に罪深いことだ。

使われている資料にはきちんと出典が明記されている。それらを元に各自さらに掘り下げてみることも重要だろうし。国民の多くをだまし,国家ぐるみで行われている犯罪的な行為を糾弾していかないといけない。

*公の仕事に関わる者は,公務が自己の利益と相反する場合もある。その場合は公益を優先するというのが倫理規範である。
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