SSブログ

台風の影響を見積もる [科学技術雑感]

2014年は台風の当たり年だったのか,10月には18号,19号と,立て続けに日本を襲い,被害を出しました。

本州中央部の当地ではどちらもさしたる影響はなかったのですが,特に19号に関して言えば,発生から発達時に大型で猛烈な台風という事で,厳重な警戒が呼びかけられました。

従来なら,専門家が情報を分析して,シロートに指針を示すのが普通でしたが,昨今は医師は患者に状況を一生懸命説明して治療法の選択を迫り,学校の先生は特に善し悪しの分からない親の意向最優先です。そんな時代では,自己の判断で行動しないといけません。幸い,ネット上で手軽に生の情報が手に入るのが有り難いところです。

前置き(中置き?)はさておき,丁度台風19号が来た時,外せない出張がありました。ちょうど出かける日が関東を襲う日にちとかち合ってしまいそうでした。気象庁は「厳重な警戒」を呼びかけていました。もし,結果オーライだったとして,「気象庁が厳重な警戒を呼びかけていたから中止した」とも言えません。逆に強行して事故った場合は,「気象庁が厳重な警戒を呼びかけていたのに強行したアンタのせい」となります。もともとの事実やデータが不正確であったり,開示されなくてはどうしようもありませんが,有り難い事に生のデータを公開しているところがあります。これを自分で分析し,納得するのが得策です。

台風は,南海上で発生して,発達しながら日本付近に近づいてきます。発生台風が幾つもある中で,たまたま日本に近づいたり,上陸したりすると被害が出ます。その動向が課題なわけです。台風の進路に関して気象庁発表のものは,過去のデータが溜まっているためか,かなり正確で,上陸しそうだと警告されるものは大概上陸します。
台風は,日本付近に近づくと,緯度が上がり海水温が下がるので勢力を弱めてきます。ましてや上陸すると急速に勢力を弱めます。沖縄や九州あたりでは,まだ台風の勢力が強いので,大きな被害が出ます。

我々の知りたいのは,自分の場所での台風の勢力の低下がどのくらいかです。特に19号の場合は,猛烈な台風で,宇宙からも目がはっきり見えたとか騒がれました。もとがデカイから,日本付近に来ても相当の被害が出るはずだと。
出張を控えていた私は,その判断の為に,こちらのサイトのデータを自分でグラフ化して監視していました。以下のものです。


これは,最大風速と中心気圧,進行速度をその日毎にプロットしたものです。通常発表されるものは,地図上に台風の位置と予想進路が示されます。風速や中心気圧は数値で示されますがその変化が分かりづらいです。また,一般に発表される台風の「大型で強い」などの標語は,暴風域の大きさと最大風速で決められますが,中心気圧も重要値です。

これらの数値が実際の威力にはどの程度効くのでしょうか?

風速30mは風速15mの2倍か?といったら,速度の数字はそうでも,風などの流体の流れの持つパワー(仕事率[W])は速度の3乗に比例しますから,風速は3乗してその変化を見るべきです*。風速30mは風速15mとではそのパワーが8倍も違うのです。生の数字だけではもっと分かりにくいのが中心気圧です。930hPaと970hPaがどれだけのパワー差があるのか?ピンと来ません。1013hPaという数字はよく知られています。大気圧の標準的な圧力値とされている量です。本来は周りとの気圧差で風が発生しますから,周りとの圧力差で見るべきですが,周りの気圧の決定が難しいので,便宜的に台風の中心気圧とこの標準の1気圧1013hPaとの差を取ります。さらにこれの2乗をとります。電気のパワーが電位差(電圧)の2乗になるのと同じことです**。これで評価しますと,930hPaと970hPaとでは,パワーが約3.7倍異なることになります。

この様な考え方に基づいて,最大風速の3乗および,中心気圧と1013hPaとの差の2乗を日毎にプロットしたのが以下のグラフです。


グラフ内に上陸地点や通過地点を書き込んであります。これを見ると,さしもの巨大台風も上陸して急激に勢力を弱めている事がわかります。しかし沖縄に上陸したころはフィリピンの東で最大勢力を持っていた時の半分程度のパワーを保持していた事がわかります。もっとも,そこで完全に頭打ちになっているというのも不自然ですから,一時的にはもっと強かったのかも知れませんが。
いずれにせよ,12日深夜に沖縄を襲い,本土方面に向かって来ました。私は14日PMから関東で仕事です。当初は飛行機で当日出る予定でしたが,飛行機は飛ばない可能性がありますし,JRでも当日朝の出発で間に合いましたが,やはり運休の可能性があるので,JRで前日13日から向かう事にしました。次の懸案は14日からの仕事が実際にできるかどうかです。ちょうど台風と鉢合わせになる可能性がありました。

以下に,沖縄上陸以降の台風19号のパワー推移を拡大して示します。


仕事に関しては予定通り出来ると確信しました。風速は5m/s刻みのデータなので,勢力を保っている様に見えますが,中心気圧はどんどん上昇しているので気圧差からもたらされる風のパワーは確実に低下しているはずだからです。ただ,交通機関の乱れは台風の勢力だけでなくて二次的影響もあるでしょうから前日出発することにしました。その判断をしたのが,13日の正午時点です。この日の9時時点で風速と気圧が段階的に変化しました。最大風速が35m/sから30m/sに,中心気圧が970hPaから975hPaにです。数値的には大差ない様に感じますが,パワー的には大きな低下です。しかもそれ以前から,気圧から見積もったパワーは漸次低下していたことが分かります。そして,その後,14日朝まで最大風速は30m/sを保っていましたが,気圧から見積もったパワーは確実に低下していた事が分かります。

それから,第1図のオレンジ色で示した移動速度ですが,ごくゆっくりだったものが13日あたりから急激に速まってしています。急速に移動速度を速めるのは,コマが止まる寸前激しく動き回るのと原理的には同じで,消滅するサインです。

どの台風でも日本に上陸する頃は勢力を弱めています。ただその弱め方のちょっとしたタイミングのずれで大きな被害を出す事がありますので慎重なウォッチが必要であることは論を待ちません。ただ,大型で猛烈な台風だった2014年19号台風も,関東に達した時は,最大風速30m/sの観測データに基づいて,呼び名こそ台風(最大風速25m以上)でしたが,実質上は消滅寸前だったことが分かります。そして,この場合は最大風速の変化よりも,気圧からパワーを見積もった方が,より実質的な判断が下せると思われました。

ただ,以上の方法は台風19号だけに成り立つというわけではないと思われますが,比較してみないと何とも言えませんので,その前の18号に関しても同じ手法でやってみました。風速の3乗と気圧差の2乗との間に19号とでは若干のずれがありますが,わずかのスケールの調整でカーブは良く重なります。まず,発生から消滅までの全体像を示します。


横軸を19号と同じ時間スケールでとっていますが,19号に比べてかなり短命でした。もっとも,19号の方がかなり長命の台風だったのでしょう。19号に比べ,パワーの大きい状態で関東に到達していることが分かります。19号では本州縦断時には,気圧差が減少しているのに最大風速を保っている様に見えましたが,18号では,やや逆傾向も見えます。この辺は,18号の方が勢力が強いまま近づいて,急速に弱まったためのバラツキと思われます。台風としての強度も規模も19号が強大だったわけですが,こちらがゆっくりじわじわ勢力を弱めながら近づいたのに比べ,速く到達した18号の関東襲来時のパワーは19号よりもずっと大きかった事がわかります。以下の襲来時3日間を拡大した図を19号のものと比較すれば明らかです。

関東付近に到達した頃の19号は,既に18号よりもずっと弱かったわけですが,「18号よりも弱い」なんて公式なところは決して言いませんので,そこは自己の判断で対応するしか無さそうでした。

実際台風通過後の14日は朝から台風一過の晴天で,そよかぜにわずかな台風の名残を残すだけでした。

*実際のパワー[W]にするには,さらに空気の密度と受ける面積を掛ける必要がありますが,それらを一定とすればパワーに比例する量と言えます。
**やはり,これを定量的なパワー[W]にするためには抵抗に相当する量で割り算する必要があります。
注記:ここで述べた内容は,筆者の個人的見解に基づくものであり,必ずしも専門学会等で認められた解釈ではありません。この見解に基づいたいかなる行為の結果にも当方は責任を持てません。
nice!(5)  コメント(0)  トラックバック(1) 
共通テーマ:学問

nice! 5

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 1

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。