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日本の女性社会進出問題から思うこと

東京医科大の入試で女子を減点していた問題が明るみに出ましたが,あれなどは全く氷山の一角だと思います。むしろ,その騒ぎで日本人と日本人が帰依する社会構造が抱える問題を,医師の世界などに矮小化してはなりません。

前川喜平氏が興味深い発言をされていました。
女性不利の状況は教員採用の現場でもあると。
教員採用試験はかなり公平な部類のものだろうと思っていましたが,そうではないようです。むしろ大学入試はペーパー試験ですから公平なのです。手心つけようとすれば,点数をいじらざるを得ないので,今回の様に問題化しますが,面接などの定性的な判定ではどうにでもなってしまいます。

とある県の高校の教員採用試験を受けたことがあります。
受けた科目で1名のみの採用のところに数人いました。紙の試験は思ったよりも易しく,しかもプログラミングの実習試験を見ていると,周りの人たちは余りにも低レベルなので,これは圧倒的に有利だろうと思っていたのですが,結果は不合格でした。

私の場合企業経験の40近い年齢が問題だったのだろうと思います。結局のちに補欠合格の通知が来たのですが,すでに別の県で採用が決まっていたため辞退する事になりました。おそらく採用側は,若くて少しマシな人を選んだのでしょうが,その人が辞退したので私に回ってきたのでしょう。しかし私も辞退したため,仮に私が2番手だったとしても3番手以降の方がそこの教員になったはずです。

アメリカでの就職に興味を持っていた30年くらい前,同地の求人広告には女性やマイノリティを優遇すると盛んに出ていました。性別・年齢で差別するどころか,むしろ優遇すると。ようやく日本でもこの10年くらい前から女性を重用するとの求人がなされました。年齢を採用条件にすることも表向きはダメな事になっています。

だがしかし,東京医大の様な件が明るみに出ます。
前川さんが指摘する様な女性教員の採用されにくさがあります。医療現場に関しても,女性医師が増えすぎると困るという現場の事情があったようです。

男女雇用機会均等法なる法律のその第一弾が当方の会社員時代に出来,その後も第二弾のさらに強化した法律もできた様ですが,実際には必ずしも女性有利にはなっていない様です。

法律で縛ってしまえば現場は何とかするだろうという現場軽視の発想がいけないのです。現場軽視の発想は元々は役所や軍に源を発するものだろうと考えます。過去に日本が犯した大きな失敗の殆どは,現場を無視した愚かな意思決定でした。多少無茶な意思決定でも精鋭な現場が何とかしのぐというのが日本の上手くいった例ではないでしょうか。結局,合理的な意思決定を行う仕組みはもちろん,その様な風土すら醸成されず,多くの現場を担う国民に役に立たない法律ばかりが作られると,何と不幸な事でしょうか。

バカ殿様でも精鋭な家臣たちが,がんばって何とかするというのが,日本社会にビルトインされている構造ではないのでしょうか。それでも,精鋭な家臣たちが実力主義で採用されていればまだ何とかなりますが,バカでも空気を読めれば重用されるとか,実力よりも如何に大勢にくっ付いて行くのが得意とか言う事になると完全にアウトではないでしょうか。

男女の雇用問題に戻りますと,それはやはり実力主義が基本です。性別に限らす,年齢やら出自やらを言い出すと,肝心の業務遂行能力・資質が2の次3の次になってしまいます。縁故主義で実力のない人たちが社会の中枢を占めたのでは,どだい繁栄するわけがありません。政治家は家督がイチバン安全だなどという不思議な意見もありましたが,これなど政治家など全くのお飾りで,実質は役所やら様々な団体の都合で決めれば良いとする,ニッポンの最も悪いところを良しと追認する暴論です。

絵にかいた形だけの男女雇用機会均等にならないためにはどうしたらいいのでしょうか?
まず現場の問題を解決する事が先決です。医療現場で女性医師が増えすぎると困るのは,それは現場環境がブラックだからです。女性医師が増えれば男性医師に益々負担が掛かるからでしょう。

法律で縛るにしても,現場の仕事環境が確実に改善するような枠をはめてから行う必要があります。
医療現場では労働関係の法規が完全に無視されています。例えば,宿直扱いで急患を扱うなどというハードな労働行為ができるわけがありません。法規上は宿直ではハードどころか普通の仕事だってできないのです。そのため賃金換算の1/3程度の手当てで泊り込んでいるわけです。労働法規を守ることがまず優先なのに,それを無視するのが常態化して現場がムリをするため,女性医師を増やせないのです。

それは教員の世界にも言えます。
ブラック部活の問題があります。モンスター親への対応が言われたこともありますが,親への対応ならまだしも,文科省への無駄な対応などは何をかいわんやでしょう。そこではやはり現場軽視,全く現場を知らない者が施策を行う事が当たり前の発想がそうさせるのでしょう。
ある種の(ごく普通の)学校では,部活(特に運動部)を担当する事が教育よりも優先されます。ボクシング連盟の問題が出ましたが,高野連などのメジャーなところもまあヤクザみたいなものです。女性教員がホワイト部活ばかり持つと,男性教員はかなわないでしょう。

男女雇用機会均等の法律ができて,現場の努力で何とかなるものはそれで良いでしょうが,男性にばかりしわ寄せが行くとか,女性が採用されても長続きせず辞めてしまうとか,そういう現場が問題なのです。産休や育休を取る事は法律上保障されているのに,それを取ると嫌がらせを受ける。十分な予算や人員が措置されないまま,女性を採用しろと法律でしばる。しばる法律ができたって,現場の努力でどうにもならなければ,かいくぐるしか仕方がありません。

そのことは民間企業の現場にもありました。もう何度か書きましたが,現場を知らない2世のアンポンタンな工場長がやって来て,とんちんかんな事を言われると,対応するのも面倒で時間のムダだから,現場の生産数字や不良率などを書き直します。このような企業風土は,社内でのみならず(社内だけならまだしも),管轄の役所からへんてこな指導が入る場合も同様でしょう。自動車の検査問題なども,現場が全て悪いかの様な報道でしたが,役所の時代遅れな検査を強いられたら現場としては,時間のムダですからごまかしたくもなるでしょう(現場の対応なのか上からの指示があったのかは知りませんが)。

かつて気骨のある経営者には役所の言う通りにはならんぞと言う,気概があった様に思います。本田宗一郎にしろ,クロネコヤマトの小倉昌男にしろ。それどころか現在,役所あるいは時の政権にべったりくっついて甘い汁を吸おうとする経営者がいる以上,今後のニッポンは良くならないでしょう。否,経営者はビジネスですから社の利益最優先です。それは非難されるべきでは無く,政治が悪いのです。悪い政治を支持する国民の責任です。

業務現場では理不尽な要求に対応して建前先行で実際には裏ルールで処理するだけです。
そこを如何にかいくぐるかが,担当者の腕の見せ所になります。日本社会で上手くやるための力量が発揮される。こんなことこそ全く「生産的」ではないのです。現場が守れない法律なら作らない方が,余程世の中のため人のためです。

雇用機会均等法じたいが,女性の求職者のためになっているのでしょうか?
現場には依然として女性が入りにくい職場があるのに,法律的には男女差別してはならないことになっている。採用側はどうするか,上で縷縷書いて来た様に,求人票には表向きは女性に門戸を開いている様に書いて,実際には採らないということをやるのです。けしからん!と言ったって仕方ありません。

女性では困る合理的な理由が職場にあるならば,その様に堂々と主張できればいいのですが,現在では法律の手前,コソコソと,法律守っている顔をして,実際には女性を取らないということをする。求職する女性にとってはムダに時間を潰されるだけです。逆もあります。女性を採りたいのに,求人票にはそう書けないから,決して採られる事のない男性が応募してしまうという,いわば,男女均等な不利益が発生してしまっています。求職者が困れば困るほど,職業紹介業者は儲かるのでしょうが。

障害者雇用の問題もそうです。最近判明した,法律で決められている障害者の雇用割合を,こともあろうに役所がごまかしていたと言う問題も,同じ構造下にあります。

現場で現れる幾多の不都合事象には,共通の問題があります。
建前の目標を掲げて現場に問題を押し付ける。現場に余力がある場合は何とかなりますが,あまりにも無理な場合は誤魔化すことしかできなくなってしまいます。

国民の多くは現場に関わっています。
本来国民の意思が政策に反映するのは,政治の力なわけです。しっかりと政治参加すべきなのですが,国民の多くは忙しさにかまけ,まず今の生活が一番と政治に関わらず,投票に行かず,行っても政策ではなくて地縁血縁だとか冠婚葬祭で電報が来たとか,他より良さそうだとかいった曖昧模糊な理由で投票行動をとります。その結果,現在ではほんの一部の人たちの意向が政治に反映し,それを他の多くの人たちが何となく追認している状態のようです。お任せ民主主義はいけません。白紙委任は独裁と同じことです。今の自分が取り敢えず良くても,ゆくゆくは不幸になるだけです。幸せは,誰も与えてくれません。自らの力でつかみとらないといけないのです。

女性の雇用問題に限らず,差別のない世の中は,誰もが暮らしやすい社会です。女性が勤めやすい職場は,男性も勤めやすい職場のはずです。にも拘らず,男性にしわ寄せがくるとか,産休育休を取られると困るというのは,現場の対応の問題ではなく,あちこちの現場に企業資本なり社会資本がきちんと投入されていないからです。企業は溜め込んだ利益を従業員のためではなくM&Aで外国企業の買収に用い,政府は政府で防衛費は湯水の様に使いますが教育予算は先進国中最下位レベルです。この流れを方向転換させなければいけません。

かつて民主党時代の菅直人総理が最小不幸社会を目指すと宣言したところ,「お前が最大不幸社会だ」などといった,論客と称するもはばかられる様な人物や一部の新聞から,全く根拠のない罵詈雑言の様な批判が集まりました。不思議です。国民の不幸を減らそうとすると批判され,国民の不利益になることばかりすると容認される。日本国民は,よぼどマゾヒストなのでしょうか。私はごめんです。とりあえず誰かに不幸を押し付けて,自分は安泰な状態にいるというのは気分良くありません。必ず自分や自分の子や孫にめぐって来るからです。
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アヨアン・イゴカー

私の所属している職場を見ていると、日本の現在の政治の縮図のような気がしてきます。最近、とみに狂気染みてきています。スタッフがどんどん退職して、求人を出すが、まともな人が応募しない、応募する人間の数も減っている。人事課は二重苦です。しかし、これは経営自体が自分に回ってくる付けと知りつつ放置しているのが原因で、人事課の責任ではないのです。経営は利益がでると、それを意味もない広告経費に大量に投入して、人件費を削減したり、商品開発・管理に金を殆ど出しません。これでは、未来はありません。
会社の場合には、付けの金額・問題が大きすぎれば、経営破綻となり、社員は路頭に迷うことになります。
日本という国を見た時、借金まみれで、予算を根拠もなく膨らませ、防衛費もトランプの言うままにぼったくり商法を唯々諾々と受け入れて増額し、それを正当化するためにテロや戦争の脅威をJアラーとなどを発して国民を騙し、本来存在理由である社会保障よりも破壊と殺人である戦争に意識を向け・・・・
絶望的になりますが、二十一世紀はインターネットの時代ですから、facebookやtwitterなどで発信し、仲間を増やしてゆくこともできるのが救いです。
各国は独立国家として基本的に出来る限り自給自足し、自給自足できないもの、不足するものなどを輸入する、その原点にもどるべきだと考えています。そう考えると、日本国民がいつのまにか負わされている借金も、自ずと減り、健全な国になるのではないかと。
by アヨアン・イゴカー (2018-09-03 12:56) 

kazg

医療界も、教育界も、「聖」職的な献身性と専門性が求められる要素がありますから、患者のため、子供のためとなればムリの上にムリを重ねます。私自身の入院経験からも、医療スタッフの過酷な働きぶりは、心苦しく感じました。学校現場もブラックの最たるもので、この状況が改まらないで女性の比率が増えれば、しわ寄せが男性に向かうのは当たり前です。おっしゃること、その通りと感じました。
by kazg (2018-09-08 06:03) 

gonntan

まさにご指摘の通りでしょう。現場を知らないトップが
勝手な発案をして押し付ける。成功すればトップの手柄。
失敗したら現場が無能だから。あの大本営がまさにその典型
だったそうですね。会社組織がそうであったら下の者は
やってられませんね。みんなが気持ち良く働けるちゃんとした
システムを作ること、それがこれからの課題です。
足を引っ張って低いレベルで満足することがないように。

by gonntan (2018-09-08 18:09) 

Enrique

アヨアン・イゴカー様,
国民多数は,経済大国であることが幸せという指標はとうの昔に間違いであることに気づいているのに,いまだに間違った政策をとり続ける政府に対する確実な答えがうちつづく少子化なのだろうと思います。
人口が減るのにGNPの表層の数字だけを追い,五輪用のムダな建物と軍事予算を膨張させる。一般会計の何倍にもなる特別会計の使い方は闇の中。いったい老人の国をだれが襲うと言うのでしょう?欠陥戦闘機1機の予算で,どれだけの国民の生活を救えるのか。近隣国を敵視させ,軍事を強化。アメリカに守られるどころか,捨て石にされているだけの日本です。
バカな事を言っている連中の絶対数は少ないと思います。日本国民がそんなに急速にバカになるわけはありません。大手マスコミを含む,政権やらそのバックのアメリカやらを笠に着てプロパガンダを叫ぶ連中が良くないのです。インターネット上に一時期はびこったおかしな動画はかなり始末されたようで,なによりです。しかしながら,ともすれば悪貨が良貨を駆逐しますので,理性を持った人々の不断の努力でそれを防がないといけません。
by Enrique (2019-01-09 13:17) 

Enrique

kazg様,
医師や教員は24時間勤務,無理を重ねるのが当たり前といったような風潮があるのだろうと思います。組合活動などもっての外と。大概経営側に立つ人は組合を敵視しますが,世の中もいつの間にか組合を既得権益者のようにみなしてしまったのが不幸です。本来そんな業界だからこそ必要なものなのです。しかし何の哲学もなく敵視するバカ者がいますね。
by Enrique (2019-01-09 13:26) 

Enrique

gonntan様,
良い半面教師がいるのですね。日本が上手くいかないのは,そういう硬直化した現場軽視の思想が蔓延った時ですね。現場を預かる人たちが,のびのびと真面目に仕事をこなせる時に日本人の能力が発揮されるのだろうと思います。
by Enrique (2019-01-09 13:31) 

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